排卵障害 / Ovulation disorder

排卵障害による不妊症の治療

脳の中にホルモン中枢である視床下部という部分があります。
ここから脳下垂体を刺激するゴナドトロピン放出ホルモン(Gonadotropin-Releasing Hormone; Gn-RH)が分泌され脳下垂体を刺激します。
すると脳下垂体はこれに反応し卵巣を刺激するホルモン(ゴナドトロピン Gonadotropin)を分泌します。
ゴナドトロピンには卵胞刺激ホルモンFSHと黄体化ホルモンLHの2種があります。
FSHは主に卵胞の発育を促します。
またLHは成熟した卵胞に作用し、排卵を起こさせ、さらに排卵後に卵巣に形成された黄体を刺激します。

このように排卵が起こるためにはFSHとLHが充分に、またバランスよく分泌されることが必要です。
逆に言うとFSH、LHが充分に分泌されない、または両ホルモンのバランスが崩れるとうまく排卵が起こりません。
これが排卵障害です。

1.中枢性排卵障害

中枢性排卵障害とは

何らかの原因のため視床下部の働きにブレーキがかかり、FSH、LHの分泌が低下すると排卵が起こらなくなることをいいます。

中枢性排卵障害の原因と症状

精神的に強いストレス、過度な体重減少(ダイエット)や大きな環境の変化などが挙げられます。
症状としては通常、月経が停止したり(無月経)、排卵がたまにしかおこらないため月経の周期が長びく(稀発月経)ことなどが挙げられます。
治療は排卵が起こらないのが不妊原因ですから、薬や注射で排卵を起こします(排卵誘発)。

主な排卵誘発剤

クロミフェン(薬品名クロミッド)

通常、中枢性排卵障害でも軽症(第1度無月経)の例に有効です。
月経(あるいは薬による出血)の第3日目から1日1~2錠を5日間服用します。
これに反応すれば服用開始14日目前後に排卵が起こり、妊娠するチャンスがきます。
このクロミッド(clomid)は副作用も少なく、安価で手軽に服用することができます。
しかし時に排卵の頃の頚管粘液分泌が少なくなってしまったり、子宮内膜が薄くなったりするなど妊娠の成立にとっては好ましくないこともあります。
クロミフェン単独を使用しても3~6ヶ月で妊娠が成立しなければクロフェミン無効と判断し、
他の方法に切り替ることも考えます。

<Clomid>
対象:比較的軽度の中枢性排卵障害の人に適す

〇副作用
(1)多胎率は服用者の5%くらいとされ、そのほとんどは双胎である。
(2)頚管粘液が少なくなることがある。
(3)子宮内膜が薄くなり、着床を妨げることがある。
類似薬:セキソビット(Sexovid)セロフェン(Serophene)

hMG(FSH)製剤

視床下部の障害が比較的軽度な例ではclomidなどでホルモン中枢を刺激すれば排卵をおこすことが可能です。
しかし視床下部の障害が重症でLHやFSHの分泌が著しく低い場合はclomidは無効です。
このような例では自力で下垂体から分泌される、LH、FSHのかわりに体外から注射でLH、FSHを補充し、直接卵巣を刺激する必要があります。これがhMG(ヒト更年期婦人尿由来性腺刺激ホルモン)です。
最近では遺伝子組換え法で尿由来ではないリコンビナントFSH(rFSH)も使用可能になりました。
通常、薬でおこした出血の3日目頃から1アンプル~2アンプルを連日注射し、卵胞の成熟を促します。

<hMG(rFSH)>
対象:中枢性排卵障害のうち重症例に適す。
方法:出血の3日目頃から原則毎日注射し卵胞の発育を促します。
卵胞の大きさが18mmくらいに達したら卵胞を破裂させる(排卵)
hCGを1回注射します。

〇副作用
(1)1個あるいは2個というようにごく少数の排卵を起こさせることが比較的困難である。
(2)多胎率が20%前後と高いこと。
(3)多くの卵胞がいっせいに発育するため、卵巣が腫れるなどの卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になる可能性もあること。

2.特殊な排卵障害 多のう胞性卵巣症候群(PCOS)

PCOSとは?

多のう胞性卵巣症候群(Polycystic Ovarian Syndrome(PCOS))は生殖年齢女性の5〜8%に発症するといわれます。
その原因は既に述べたゴナドトロピンの一つLHが過剰に分泌され、男性ホルモン(アンドロゲン)が多く分泌され、卵巣の中に多数の卵胞の存在により多のう胞性の変化をおこします。
また最近の研究ではPCOSの方には膵臓から分泌されるインスリンに対して反応が不良な(インスリン抵抗性)の患者様が多いことも指摘されています。

PCOSの症状

・月経異常(無月経・稀発月経・無排卵周期症)
・肥満の患者様が多い(日本では標準体重の方も多い)
・多毛、ニキビなどの男性ホルモン作用の症状を伴う方もいる(日本人男性の症状は軽い)

PCOSの診断

a 月経異常(無月経・稀発月経・無排卵周期症)がある
b

多のう胞性卵巣(超音波断層検査で両側の卵巣に多数の小さな卵胞がみられ、少なくとも一方の卵巣で2~9mmの小卵胞が10個以上ある)

c LH高値、男性ホルモンの過剰分泌

右記a,b,c の全ての基準をみたす場合、PCOSと診断されます。

PCOSの排卵誘発法

PCOSの患者様に対しては、様々な排卵誘発法が存在します。その中から、当クリニックでは以下の3種類に絞って、患者様の状態に合わせた排卵誘発法をご提案しております。

(1)減量(運動や食事療法など)による方法
肥満と認められた方には、最初に運動や食事療法による減量を勧める場合があります。間食を止めるなどの生活習慣の見直しを行い、生活リズムを整えることで、自然排卵を促します。

(2)薬の投与による方法
減量を行っても排卵が促されない場合、クロミフェンを1~2錠服用していただくフェーズへ移行することもあります。クロミフェン以外に排卵誘発剤として使用しているのは、メトホルミンやデキサメタゾン(デカドロン)、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール フェマーラ(R))などです。また注射による投与法としては、ゴナドトロピン療法(低用量FSH漸増療法)があります。
※アロマターゼ阻害剤(レトロゾール フェマーラ(R))は、術後補助治療薬のため排卵誘発剤としては保険適用とならず、自費負担となります。

(3)卵巣の表面に穴を開ける方法
腹腔鏡を使って、卵巣の表面に小さな穴を開ける方法を、腹腔鏡下卵巣多孔術(Laparoscopic Ovarian Drilling(LOD))と言います。薬の投与が難しい場合などに適用されることが多い方法です。