更年期障害の治療法のメインは主に薬物療法です。 薬物療法には主にエストロゲン製剤によるホルモン補充療法(hormone replacement Therapy(HRT)、漢方薬、向精神薬がありますが、患者様の症状とその程度により薬物を選択します。
更年期障害の大きな原因は卵巣機能が著しく低下し卵巣から女性ホルモン(特にエストロゲン)の分泌量が低下したことによるホルモン欠落症状であることは既に述べました。
従ってその治療のメインは欠落したエストロゲンを補充する方法です。
これがホルモン補充療法(HRT)です。
補充するホルモンの中心はエストロゲンです。
さらにエストロゲン(E)による好ましくない症状をストップするためにもう一つの女性ホルモンである合成黄体ホルモン、プロゲスチン(P)を併用します。
従ってHRTとは通常E+P補充療法のことを指します。
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子宮がない場合(子宮筋腫などで子宮を摘出した場合)
エストロゲン単独補充療法(ERT)を行う。 子宮がない場合はE剤のみの補充で充分であり、これには持続的投与法と間欠投与法があります。
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子宮がある場合
E+P両剤の併用法を行います。
これには- (a)間欠法・周期的併用療法
- (b)持続法・持続的併用投与法
とがあります。表2を参照してください。
表2
(日産婦会誌 2013,65,2019-2022より引用)
1) 内服薬
プレマリン 1日1錠内服
ジエリナ 1日1錠内服
2)貼布薬(貼り薬)
エストラーナ(入浴後500円硬貨大のパッチ)をお腹に貼り、そのまま貼り続け2日ごとに貼りかえるだけです。皮膚からホルモンが体内に吸収されます。
3)ジェル剤(ゼリー状になったぬり薬)
エストラジェル(ジェルを手にのせ、皮膚にぬるだけでホルモンが体内に吸収される)
4)デイビゲル
・子宮がある場合はE単独では子宮内膜が厚くなり過ぎたり(子宮内膜増殖症)、癌化するのを予防するために黄体ホルモン(プロゲスチン)を併用する。
・プロベラ
・ヒスロン
5)その他一つ錠剤あるいは貼り薬(パッチ)にEとPが両方入っているE+P剤もあります。
・ウェールナラ 1日1錠内服
・メノエイドコンビパッチ(週に2回貼り変えるだけ)
以上のようにHRTには多くの技法、薬剤がありますが、どの方法あるいは薬を使用するかは患者様の年令、子宮の有無、症状の強さ、閉経からの期間等々から総合的に判断して各患者様に最も合う方法を選択します。
HRTは治療法としてとても優れた方法です。
しかし誰でも使用できるというわけではありません。
表4にはHRTを使用してはいけない方(禁忌症例)と、慎重投与ないし条件付きで投与が可能な症例を示しました。
【 禁忌症例 】
- ・重度の活動性肝疾患
- ・現在の乳癌とその既往
- ・現在の子宮内膜癌、低悪性度子宮内膜間質肉腫
- ・原因不明の不正性器出血
- ・妊娠が疑われる場合
- ・急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
- ・心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往
- ・脳卒中の既往
【 慎重投与ないしは条件付きで投与が可能な症例 】
- ・子宮内膜癌の既往
- ・卵巣癌の既往
- ・肥満
- ・60歳以上または閉経後10年以上の新規投与
- ・血栓症のリスクを有する場合
- ・冠攣縮および微小血管狭心症の既往
- ・慢性肝疾患
- ・胆嚢炎および胆石症の既往
- ・重症の高トリグリセリド血症
- ・コントロール不良な糖尿病
- ・コントロール不良な高血圧
- ・子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往
- ・片頭痛
- ・てんかん
- ・急性ポルフィリン血症
- ・全身性エリテマトーデス(SLE)
日産婦学会・日本更年期医学会慣習;
ホルモン補充療法ガイドライン2012年度版、
東京公益社団法人 日本産婦人科学会.2012 (Guidline)より引用
このような方ではHRTが有効でもHRTの好ましくない作用が出る可能性があるからです。
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出血
既に述べたHRTの投与法のうち、持続的投与法では投与スタートの早い時期に少量の出血(spotting)があることが多いものです。しかしそのまま継続するとその多くは出血がおこらなくなります。
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乳癌
HRTにより乳癌の発生が増加したとの報告(WHI試験)がありますが、定期的な乳癌検診を行っていればリスクはそれほど大きいわけではないと考えられています。
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静脈血栓塞栓症(VTE)
経口(内服)によるHRTではVTEのリスクが上昇するとの報告がありますが、経皮吸収エストロゲン(パッチ)では増加しないといわれています。