男女別による不妊原因
女性のみ | 41% |
女性+男性の両方 | 24% |
男性のみ | 24% |
このように不妊カップルの約50%が男性(夫)側に原因があるのです。
男性(夫)も積極的に不妊検査・治療に参加しましょう。
(1)造精機能障害(男性不妊の82.4%)
精巣(睾丸)で精子がつくられる過程に問題がある(造精機能障害)のため、
- 精子数が少ない(精子減少症)
- 運動率が悪い(精子無力症)
- ①+②(精子減少、無力症)
- 精子がいない(無精子症)
のいずれかに当てはまる場合です。
(2)造精障害の原因は?
造精障害の原因
原因 | 所見 | 頻度 |
1.特発性 | はっきりとした原因がない | 42.1% |
2.精索静脈瘤 | 精巣のまわりに静脈のこぶ(静脈瘤)ができる | 30.2% |
3.その他 | ・染色体・遺伝子異常 ・薬剤性 ・停留精巣 ・その他 |
7.8% |
(1)(湯村寧:我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究2016より引用 一部改変)
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精液検査
1)精液検査の方法
① 2~7日間禁欲の後、マスターベーションにて精液を採取する。
↓
② 精液は容器(ポーター)に入れクリニックに持参していただきます(1~2時間以内ならOK)。
↓
③ コンピューターによる解析
精子はコンピューターによる自動精子測定器(CASA)により短時間で正確に測定が可能です。2)1回目の精液所見が悪い場合は再検査することをおすすめします。
1回目と2回目の検査結果がかなり異なることがしばしばあります。
3)スマホを用い自宅で行える簡易自動精液検査法
リクルートライフスタイル社が開発したキットSEEMがあります。これは必ずしも正確なデータではないものの、男性が医療機関を受診するきっかけになるという利点もあります。
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その他の男性不妊検査
1)視触診
陰のうを触診し、精巣(睾丸)の大きさを見ます。通常オーキッドメーターという道具を使い、精巣のおおよその大きさを計測します。
2)精索静脈瘤の有無
陰のうの表面に血管(静脈)が浮き出ていないかをチェックします。具体的には立位で腹圧をかける(Valsalva体位)で判定します。
Grade1 立位 腹圧をかけると触診で診断できる Grade2 立位 腹圧負荷無しで触診で診断できる Grade3 立位 腹圧負荷無しで視診で診断できる しかし、精索静脈瘤は一般男性の約20%に発生します。精索静脈瘤があっても精液所見が悪くない方も少なくありません。その取り扱い(手術)は慎重に考える必要があります。(治療は後述)
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造精障害の治療
1)マルチビタミン、サプリメント
男性不妊の原因の約82%が造精障害です。そのうちの多くは原因が分からない原因不明の精子減少症や精子無力症です。
しかし決定的な治療法は現在までのところ確立されていません。そうした中でもビタミン剤や、抗酸化作用があるサプリメントが有効である可能性は示唆されています。有効性が示唆されるビタミン剤 ・ビタミンB12
・ビタミンE
・ビタミンC有効性が示唆されるサプリメント ・コエンザイムQ10(精子のエネルギー代謝を促進)
・L-カルニチン(ミトコンドリアを活性化)
・アスタキンサン(抗酸化作用)
・亜鉛(必須ミネラル)
・マカ(精子運動を高める?)マルチビタミンの有効率は約20%、サプリメントは約30%と報告されています。(文献1)
このようにサプリメントは造精障害の全ての方に有効とは言えないものの、1/3~1/5の方には有効と考えられています。2)日常生活の工夫
- ・禁煙 タバコは造精機能に直接ダメージを与えます。禁煙をしましょう。
- ・サウナ 長時間の熱い温度の入浴習慣はよくありません。
- ・精巣を温める下着 をつけない。ボクサータイプよりトランクスタイプが好ましい。
- ・ひざの上での長時間のパソコン操作。
- ・長期間の禁欲生活。 理想的には週1回以上の性生活で精子を新陳代謝させることが望ましい。
- ・鉄・亜鉛・ビタミンを充分に補足できるバランスの良い食事。
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精索静脈瘤の治療
1)どのような方が手術の対象となるか?
精索静脈瘤があるからといって全ての方が手術の対象になるわけではありません。アメリカ生殖医学会(ASRM)のガイドラインでは、次のような男性を対象とすべきとしています。
手術の対象(適応) 1.不妊症があるカップル
2.触って分かる静脈瘤がある
3.精子所見が異常である
4.女性パートナーに不妊の原因がないか、あっても治療可能である(Practice Committee of American Society for Reproductive Medicine and the Society Male Reproduction and Urology.
Report on varicocele and infertility : a committee opinion , Fertil and Steril 102 1556-1560,2014)2)手術の効果は?
厚生労働省調査で手術の効果が報告されました(文献1)。1387例に手術が行われ、1年後に精液所見が改善し有効と判断された症例は1026例(74.0%)でした。
逆に26%は改善がみられませんでした。
手術をした方のうち316例の妊娠が確認されています。3)手術でどのような症例で改善が期待できるか?
・静脈瘤のGrade(進行度)が高い方 ・術前で精液所見が比較的良好な方 ・精巣の容積が大きい方 ・若年者で予後が良いという (Samplaski MK. Prognostic factors for favorable outcome after varicocele repair in adlecents and adult. Asian J Androl 18, 217-221.2016)
4)術後どの時期から効果が現れるか?
おおむね3~6ヶ月間後から効果が現れる。
術後精子所見が改善しない、あるいは妊娠しない場合術後 ステップアップ 術後、精子所見が改善しない 人工授精
↓
体外受精改善しても妊娠しない 5)術後の妊娠作戦
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性機能障害(ED)の治療
性機能障害のほとんどは勃起障害(ED)です。
1)EDの治療
陰茎の血管の拡張を亢進させ勃起をうながすPDE5阻害薬が第一選択です。バイアグラ・シアリスなどを処方します。
i)PDE5阻害薬でどの位効果が期待できるか?
湯村(1)の調査によると本剤を服用した627例中539例(86.0%)が勃起機能が改善し、高い有効率であり、うち妊娠も112例報告されている。
ii)PDE5阻害薬は誰もが服用できるか?禁忌は?
①心臓や血管系障害(狭心症)など性行為が不適当な方は禁忌(服用できません)
② 狭心症などでニトログリセリンなどを服用している方
③ 低血圧や高血圧が充分にコントロールされていない方などです。処方してもらう場合は医師によく相談してください。
iii)PDE5阻害薬(バイアグラ・シアリス)の使い方は?
通常、性行為の少なくとも1時間前にPDE5阻害薬を服用します。いずれも1日1回の服用で投与間隔は24時間以上空ける必要があります。
永尾(2)によればPDE阻害薬の服用で
性交の試みの頻度の改善 81.0% 挿入頻度の改善 70.2% 腟内射精頻度の改善 63.1% うち妊娠例は7.1%であったと報告されています。
(2) (永尾光一 男性不妊アップデートより勃起障害・射精障害とその治療、臨床婦人科産科 72(11):1093-98, 2018)
シアリス5mg:1錠2,200円
バイアグラは当院に置いておりません。
リスク・副作用→過敏症・消化不良・筋肉痛など。高血圧症の方には使用できません。
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人工授精による治療
1)人工授精はどんな方法
人工授精とは夫の精子を子宮腔内に注入する方法です
①マスターベーションにて精液を採取
↓
②運動良好な精子の回収と濃縮(約40分)
↓
③細いチューブで子宮腔内に精子を注入(約1分)
(子宮腔内精子注入法 IUIまたはAIH)2)どんな人に人工授精は有効か?
①EDの方
②精子数が少ないか、運動率が悪い(造精障害)
③sexlessのカップル
④薬物療法や手術(精索静脈瘤)をしても妊娠に成功しない場合
3)人工授精の妊娠率
1回当たりの妊娠率は約6%位。
3~4回繰り返し、症例当たりの妊娠率は約18%位です。4)費用は?
施設により異なりますが2~3万円位です。
5)人工授精でもある程度の精子の数、運動率が必要
妊娠するための精子数は少なくとも1000万/ml以上、運動率は30%以上が必要です。
精子数1000万/ml以下では体外受精、顕微授精が必要です。
人工授精の詳細については、当クリニックホームページの『人工授精』の項目をご参照下さい。6)体外受精、顕微授精法
精子数が1000万/ml以下、あるいは運動率が30%以下と悪い場合は人工授精による妊娠は期待できません。
そのような場合、妻の卵と夫の精子を体外で直接出会わせ、受精させ、受精卵(胚)を子宮に戻す方法、体外受精が必要です。『体外受精』『顕微授精』を合わせて生殖補助医療(ART)と呼びますが、この詳細は当クリニックホームページの『生殖補助医療(ART)』をご参照下さい。
- Q1.性交は排卵日頃に1回行えば充分か?
- A.排卵と思われる頃、2日間隔で3回位タイミングをもてばそのうち1回は排卵日と一致しているはずです。1回で決めると思わないで下さい。
- Q2.タイミング性交を何回位して妊娠しなければ不妊検査を始めたら良いか?
- A.通常日本人では新婚夫婦は1年間に70%妊娠すると言われています。
1年間に12回の排卵があれば12回のチャンスがあるわけです。2年目で妊娠する確率は20%です。ですから大まかにいうと1年間、排卵日を気にしてタイミング性交を行っても妊娠しなければ不妊症専門医の受診をおすすめします。 - Q3.性交回数と不妊は関係ありますか?
- A.女性が健康で、かつパートナーの精子に問題がなければ、排卵日に1回タイミングをもてば妊娠するはずですが、実際はそうではありません。
一つには精子は、良いときと不良の時とかなりバラツキがあること。精子はあまり長期間の禁欲期間の後では良い精子は射精されません。逆にあまり頻回のSEXでも造精が追いつかず、精子数は減少します。
目安として、月に数回の性交が望まれます。 - Q4.排卵日までは禁欲を続けたほうが良いか?
- A.あまり長期の禁欲はよくありません。理想的には2~7日間禁欲後の精液検査が推奨されます。ですから排卵日にタイミングをもつとすれば、予想排卵日の2~7日前に1回性交を済ませておくことが良いでしょう。
- Q5.sexlessですが何か良い方法はありますか?
- A.sexlessは造語です。sexlessとは『特別な原因がなく1ヶ月以上性交渉が無く、その状況が何ヶ月も継続する状態』と定義されています。
不妊の原因がsexlessならsexをすることで簡単に解決できそうですが、当事者にはそう簡単ではありません。背景にはご主人の仕事が多忙で帰宅が遅いとか、ED気味であるとか、夫婦仲がうまくいっていないなど、いろいろな事情があります。
sexlessの不妊カップルはsexするよう努力できればそれに越したことはありません。しかし現実にはそういかないことが多いのです。
そのような場合は人工授精という方法があります。自宅で精液を採り、奥様が持参し洗浄濃縮処理した後、精子を子宮内に注入する方法です。必要する時間は2~3分です。夫婦にsexless以外の不妊原因がなければ、妊娠率は18%位期待できます。