着床前診断(preimplantation genetic testing; PGT)とは、受精卵(胚盤胞)の一部の細胞を採取し、染色体や遺伝子検査を行い、染色体や構造の異常を認めない受精卵を移植することで、特定の病気や流産を回避し、健康なお子さんを得る可能性を高めることが期待されている技術です。PGTには、3種類の検査(PGT-A, PGT-M, PGT-SR)があります。
- PGT-A (Aneuploidies) : 受精卵の染色体数が正常(46,XX/46,XY)かどうかを判定します。
- PGT-M (Monogenic) : 特定の遺伝子異常によって起こる遺伝疾患の原因遺伝子について検査します。
- PGT-SR (Structural Rearrangements) : 染色体の構造異常を検査します。
PGT-Aは、染色体の数の異常(異数性)についての検査です。
日本産科婦人科学会の主導によるPGT-Aに関する新しい臨床研究が2020年1月より開始され、当院も本臨床研究へ参加しております。対象となる方は以下の方です。
体外受精・胚移植実施中で、胚移植で2回以上臨床的妊娠が成立していない方(胚移植の不成功については連続している必要はありません。)
※夫婦染色体検査(必須ではない)で、いずれかに均衡型構造異常が認められる場合は除外されます。
反復する流死産の経験のある方。(流死産は連続している必要はありません。)
※夫婦染色体検査(必須)で、いずれかに均衡型構造異常が認められる場合は除外されます。
<注意事項>
- 過去の出産の有無を問いません。
- 生化学的妊娠(胎嚢が確認できる前に終了した妊娠)は流産には数えません。
- 生殖補助医療の治療歴の有無は問いません。
- 過去の流産時における絨毛染色体検査は実施されていなくても構いません。
胚盤胞は胎児を形成する細胞(内細胞塊)と、胎盤を形成する細胞(外細胞塊)から成ります。検査に使う細胞は、胎児への影響が少ないように外細胞塊の細胞を採取します。
(注)一定の細胞数が期待できない低グレードの胚盤胞では検査が実施できない場合があります。検査結果によっては再検査(細胞の再採取)が必要になる場合もあります。
- この検査は妊娠を保証するものではありません。
また、染色体に異常がなくても原因不明の流産が起こる可能性があります。 - 染色体検査を行うため『胚盤胞』の一部の細胞を採取します。
この処置により生まれてくる赤ちゃんに異常が生じたという報告はありませんが、胚盤胞がダメージを受け着床率の低下、流産率の上昇を生じる可能性があります。 - すでに凍結保存してある胚を検査する場合には、再凍結が必要になります。
また、融解後の状態によっては検査ができない場合があります。 - 染色体の『数の異常』は検出できますが、『小さな構造の異常』(染色体の一部が入れ替わる『転座』など)は検出できません。
- 本検査では胚の染色体の数的異常および、ある一定以上の長さで起こった重複・欠失のみを検査します。そのため、異常が無いと判断された胚を移植し、妊娠が成立した場合でも、検査では検出できない異常を原因とする流産が起こる可能性があります。
- 胎盤を形成する細胞のみを検査対象とし、胎児を形成する細胞の採取は、胎児への影響が懸念されるため行いません。胎盤を形成する細胞の染色体パターンと、胎児を形成する細胞の染色体パターンは稀に一致しないことがあり、本検査では出生する児の染色体異常を100%防ぐことは保証されません。(希望により、妊娠が成立し継続した場合、羊水検査、NIPTなどの出生前検査を受けていただくことが可能です。)
この様に、PGT-Aが全ての染色体異常を検出できる検査ではないこと、ならびに必ずしも結果を保証できる検査ではないことを予め了承ください。
また、着床前診断の結果、採卵で得られた胚盤胞のすべてに染色体異常があり、移植可能な胚盤胞がない場合もあり得ますのでご了承ください。
着床前診断は、生まれてくる赤ちゃんの染色体検査ですので、これまでの経過を踏まえて、十分な遺伝カウンセリングや倫理的配慮が必要で、実施に際しては極めて慎重な対応が必要となります。
一検体(胚盤胞)あたり110,000円(税込)
事前の遺伝カウンセリング料金として5,500円(税込)必要です。
また、胚盤胞はすべて凍結保存をすることとなり、凍結料、保管料、移植時には融解料が別途必要です。
- 細胞輸送中に不測の事態(空輸中および陸送中の事故など)が生じた場合、その輸送に掛かった費用ならびに検査費用はいただきません。その他の補償は行いません。
- 臨床研究の規定より、胚盤胞は1つずつ移植することとなります(2個胚移植はできません)。
- 臨床研究の規定により、性染色体については、異常があった場合を除き、知らされませんのであらかじめ了承ください。
日本産科婦人科学会の研究計画に従い下記の流れで行います。
- 参加患者さんのリクルート…適応に該当するかを判断いたします。
- 夫婦で遺伝カウンセリングを受けていただきます。
- 参加の意思を確認し、対象者・配偶者の同意書類をいただきます。
- 日本産科婦人科学会に、研究参加について仮登録をします。
- 刺激・採卵・胚盤胞生検・凍結・移送を行います。
- 解析結果が返却されます。
- 解析情報と胚移植に関しカウンセリングを行います。
- 胚移植を行います。
- 日本産科婦人科学会に、研究参加について本登録をします。
- 妊娠結果・転帰を、日本産科婦人科学会に報告します。